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まぼろしの本屋さん

虚構を卸して日銭を稼ぐ
「どなたか要りますか、理想の夏」
言葉を刻んだ まぼろしのインク
優しい勘違いを切り取って綴る

栞を挟むページの隙
泥で汚れた放課後の陽
川沿いは赤く縁取られて
まるで世界の終わりみたいだね

嘘でもいいと思うのは
いつまでも子供じゃないから
月の浦には兎がいて
太陽とかくれんぼ

あとがき終わって瞼を閉じる
「みんなここにいたのにな。」
虚像の書店に名前なんてないよ
想いは背表紙 引きずって歩く

虚構を卸す 理想は虚しい
質量の無い束の間の火
積み重なる思い出のインク
まるで自由な牢獄みたいだね

独りがいいと思うほど
ぼくたちは大人じゃないから
闇の中にはお化けがいて
訳もなく不安だね

一日終わって瞼を閉じる
「今日はどんな夢を見よう?」
虚像の書店に名前を付けるな
汚れてく表紙を優しく撫でる

座席に座ってエピローグが
もうすぐ終わる 幸せな話
虚像の書店に名前は要らないね

あとがき終わって瞼を閉じる
「いつもここにいる、全部ね。」
虚像の書店に名前なんてないよ
心がいつか目次になるだけ。